太陽はギラギラ光っていて、あたりを眩く照らす。7月の空は青い。
ピーっと勢いよく笛が鳴る。
「よーし、休憩!!」
体育教師の声が青空に響きわたる。
「お水、どうぞ。」
ルキアは抱えているカゴの中のミネラルウォーターを配る。
「ルキアちゃん、マネージャーに入ってくれて本当に助かるよ〜〜!!」
隣で髪を二つにくくった女の子が言う。
「いや、私も暇だったから。」
部活に入ろうと考えていたルキアは、陸上部のマネージャーになった。最初は自
分が選手になろうと思っていたが、どうしても人手が足りない、と勧誘され、
マネージャーになる事にした。実際男子は大喜びしたそうだ。
「今日も暑いねぇ。」
「本当に……」
ふたりは空を見上げる。
夏休みに入った今も、毎日部活はある。インターハイ落ちした部員達は、来年に
向けて闘志を燃やしていた。
青空は、雲が高く飛んでいる。ピーっとまた笛が勢いよく鳴った。
「よう、珍しい組み合わせじゃん。」
一護はコーヒーを片手に持ったまま、突然訪問してきた雨竜と織姫を見た。
「ごめんね。何回も突然。今日は、話したい事があるんだ。」
織姫はかしこまった口調で話す。普段は明るく、楽しげに話す彼女だから、その
様子は珍しかった。
「わかった………石田もか?」
あぁ、と石田はうなずく。
一護はふたりの様子を見て、話が長くなりそうだと思い、ふたりをリビングに通した。
黒崎家のリビングは、昔と違い殺風景だった。白いソファーに30インチの薄型液
晶テレビ。植物は置かない主義らしい。テーブルはガラスで、よく研かれていた。
灰色のマットレスも丁寧に掃除機がかけられた後のようだ。カーテンも白。
その隣の棚も白。しかしその上には、この部屋には似つかわしくない
ピンク色のうさぎのぬいぐるみが置かれている。
昔あった大きな遺影は、今はもうない。
「可愛いぬいぐるみ。」
朽木さんのだね。と織姫がもらし、目を細め、ふふっと笑う。
「二人ともコーヒーでいいか?」
一護は白衣を来たままコーヒーを入れている。石田、今日は非番?とミルクを片
手に聞いた。
石田は白いソファーに腰掛け、あぁ。とだけ言った。
コーヒーができ、一護はそれをテーブルに置いた。それはコンと音を立てた。
「で、話ってなんだよ」
「あ、あのね黒崎くん、落ち着いて聞いて欲しいの」
「黒崎、僕たちの話は、嘘なんかじゃない。」
石田と織姫は真剣な顔で話す。まっすぐに一護の目を見て。
「わかったわかった。あ、もしかして水色が結婚したとかか?」
一護は冗談っぽく、人さし指をふたりの方に向けて話した。
「いや、えっと・・そーじゃなくて、朽木さんの事なの」
織姫は今までモジモジさせていた手で、はいている黄色のロングスカートを
ぎゅっとにぎった。
「ルキア?」
一護は一瞬眉をしかめる。
「そうだ、黒崎、朽木さんがいるんだろう?」
一護はわけがわからないという顔をして二人を見た。
ピーっと鳴った笛の音で、生徒たちはようやく解放された。みんな息が荒く、顔
に疲労が出ている。ルキアは部員が使ったペットボトルや、ストップウォッチを
片付けていた。時間はもう5時半だ。この後さらに部員のタイムの集計をしてから
ではないと帰れない。ルキアは夕飯の支度が遅くなるであろうと思い、部活を
ハイスピードで進めた。そうしているうちに、一人の部員がルキアに声をかけた。
「朽木さん、タイムの整理大変だろう?」
それは一つ上の先輩だった。黒い刈り上げのような髪型をしていた。笑う時に手
で髪の毛を触る事を覚えている。
「どうしたんですか??みんなもう着替えてますよ。」
ルキアは不思議そうな顔で彼を見た。
「いや、暇だから手伝おっかな、なんて…」
「い、いいです!!そんな先輩に手伝ってもらう程の事じゃありません」
ルキアは腕をぶんぶんふった。先輩は、少しもの悲しげな顔をしていた。
「そっか、残念だなぁ。朽木さんと、もっと一緒にいたかっただけなんだけどなぁ」
「え……」
ルキアは先輩が伝えたい事を少し悟った。自分に好意を抱いているという事だ。
その後、先輩の申し出を丁寧に断り、ルキアは誰もいなくなった更衣室で着替えていた。
女子更衣室は、外から見えないように、ガラスがすりガラスになっている。近年ではそれさえも
ダメだと判断されたらしく、窓は布で覆ってある。だから外の夕日を見る事ができない。
ルキアは夕日が一番好きだった。空が見せる色々な表情の中でも、夕日は今日の終りの色だと思った。
今日を無事に終えたという、安心の色。明日を無事に迎える事が出来るという、安心の色。
ブラウスのボタンを上からふたつかけた時に、先輩の顔を思い出した。
あの、頬を少しピンクに染めて、体からは、汗じゃなくってもっと甘酸っぱいものの香りがしそうな
あの表情。
「恋・・・か。」
ルキアはまだ恋をした事がなかった。幼い頃は孤児院にいて、それどころではなかったし、
孤児院にいたせいでいじめられたりした。だから少しだけ心を閉ざした事もあった。
中学に上がってからは、そんな自分を取り繕うように笑っていた。取り繕った笑顔は
その場はごまかせても、人の心はごまかせなかった。だからあんまり友達も出来ずに卒業した。
でも、黒崎のおじさんに引き取られてからは、以外に世界が明るい。
どうしてだろう。
ルキアはここ最近ずっと考えていた。
高校では、そのおかげで綺麗に笑う事ができる。みんなと素直に話せる。
着替え終わって、更衣室を後にした。
外は綺麗な橙色だ。あたりをやさしく包んでいる。あぁ、綺麗なオレンジ色。
と ルキアはつぶやく。
オレンジ。あったかい色。落ち着く色。
あぁ、そっか。最近上手く笑えると思った。どうりで、
彼がいたからだ。彼が、全部本心で話してくれて、接してくれた。
だから自分もさらけだす事ができたんだ。
一護がいたから。私は最近世界が明るい。
そう、気付いた。気付けて気分がいい。ルキアは、鼻歌を歌いながら駆け出す。
はやく家に帰ろうと思った。
あとがき。
ごめんなさい。一護とルキアはからみませんでした。嘘をつきました・・・。意外と長引いて自分でもびっくりデス。もう少しお付き合いくださいませ。
できれば御感想をくださるとうれしいです。あつかましくてすみません。