白い壁から、石田は一護に目線をうつした。一護はいそいそと帰る仕度をしている。辺りはもう夕暮れで、白い壁はオレンジ色に染まる。
「ずいぶん仲がいいのかい?その子と」
「あ?仲良いつっーか……別に。」
「へぇ、僕も会ってみたいな。朽木ルキアさん」
「なんでだよ、お前ロリコンか?」
「ちがっ!!……変な事を言うのはやめてくれたまえ。」
石田はメガネを上げ下げする。
「おし、俺は帰る。また井上の様子を連絡くれ。」
「あぁ、わかったよ」
じゃあなと一護は言い残した。僕はぱたんと閉まったドアを見る。
━━━━あの日、朽木さんの霊圧が消えたのをあまり特別視しなかった。なぜなら彼女は、あちらの人間だから。だから、ソウルソサエティに帰ったのだと思っていた。
だけど違った。
次の日に登校すると、案の定彼女の姿はなく、黒崎に尋ねた。
━━━「朽木さん、帰ったのかい?」
黒崎は、その時きょとんとして言ったんだ。
━━━━…“朽木ってダレ?”
“!?”
僕は言葉を失った。朽木さんだよ!!朽木ルキア、君、からかってるのかい??
そう聞くと黒崎は、これでもかというくらいに眉間にシワを寄せ、「しらねーよ、頭おかしいんじゃねーの」
と言い残し席を立った。
井上さんに聞いても、茶度くんに聞いても、同じだった。わかるのは、あの日、父親の手で自分が守られていたという事。
そして、これ以上調べたら自分の記憶をも消されかねないという事。
僕も、すべてを忘れたふりをした。多分、浦原喜助や、父親たちが動いているのはわかっていたから。
━━━この日がくるまで、じっと堪えていた。
「………おかえり、朽木さん。」
石田はもう沈みかけた夕日に問うようにつぶやいた。
ドアを開けると、辺り一面カレーの匂いがした。
「今日。カレー?」
一護は台所にいる小さな少女に向かって問いかける。彼女はピンクのエプロンをつけている。胸の真ん中にうさぎのアップリケのついたシンプルなやつだ。下にはまだ制服を着ていた。
「おぉ!!一護!!そうだぞ。所で、井上殿の具合は━??」
おたまで中身をかき混ぜながらルキアは振り向いた。
「異常はないってさ。ストレスかもしれないらしい。お前そーとー派手にドアぶつけてたからなぁ。」
一護はにやにやとからかうように言う。
「〜〜〜それはっ!!でも良かった。」
ルキアはそれを聞いてほっとしていた。もしかして、本当に自分がドアをぶつけた事によるものだったら、洒落にならないからだ。胸をなでおろし、まだコポコポと煮立っている茶色い液体をおたまですくった。白地に中の色が黒い食器にそれを注ぐ。モノトーンの食器はすべて一護のものだった。彼はそういうものが好みらしかった。コップもスプーンもすべて揃えてあり、マメな彼らしいと思う。
「さっさと食おうぜ。」
「うむ。」
一護はルキアの小さな手を見た。小さな手が器用にスプーンでカレーをすくう。そして視線を上げる、長い睫毛で頬に影が出来ている事を発見する。
うまく出来ていると感心する。パーツが全て人形みたいだ。
「うまいか!?」
ルキアはおそるおそる一護にたずねる。
「…………うまい。」
若干悔しそうに一護は答えた。
「そうか。」
彼女は朗らかに笑った。最近、ルキアと一緒に居ると居心地が良い事に自分でも気づいていた。
出会いは最悪だったのに。
気が強そうでいて、毎日家事をきっちりこなす優しさも。年上なのにもかかわらず、ズバズバと物を言ってくる所も。我が儘そうでいて、いつも人の事を考えている所も。
何より、一緒に暮らし始めて1ヶ月もたっていないのに、ずっと一緒にいるような安心感があった。
ずいぶんとおかしい話だと思う。相手は16歳も年下なのに。
一護はカレーをすべて平らげて、ごちそうさま。と言った。ちゃんと手を合わせている。
「ずいぶん綺麗に食べたな。そんなに腹が減ってたのか?」
まだ半分も食べていないルキアは大きな眼をぱちくりさせた。
「まぁなぁ、所でお前って部活とか入ってねーの?」
一護は立ち上がり、食器を流し台まで運ぶ。
「部活?あぁ、入りたいんだがなー。家も近くなった事だし。」
ルキアはもぐもぐ口を動かしている。
「入ればいいじゃん。せっかくだから。」
じゃーっと水が流れる音が響く。
「う〜ん」
「何がしたい?」
一護は、年上らしくものやわらかに言った。
「………剣道…とか空手…とか。」
「………まじ?お前がそんなの習ったら、もう最強じゃん。敵ナシだな」
「な!!人をなんだと思っておるのだ!!こんなにいたいけな少女だというのに。」
いたいけねぇ、うんうん。一護は皿を洗いながら頷く。
「馬鹿にしておるのか貴様ぁ!!」
ルキアが顔を少し赤くしてフォークを振り回していた。
「あーもー振り回すな。」
ぱしっと、一護がルキアの小さな手を掴む。 その行動に、ルキアはぱちりと睫毛を振るわせた。
大きな眼がじいっと一護を見る。
「なんだよ。」
「いや、なんでもない。」
一護はすぐに手を離した。
胸の辺りがキュっとなるのを感じる。
━━━━オイオイ、なんだよこりゃあ、仮にもこいつは預かり物で、しかも16歳も年下で、しかも女子高生だぞ。一護はないない、とルキアに聞こえぬように、小さく呟きながら食器についた泡を水ですすいでいる。
ルキアは、と言うと。少し頬を染めていた。
━━━━なんだと言うのだ。少し手を触られただけなのに。それなのに。同様してしまった。あり得ない。これだから私はまだ子供なのだ。
「んじゃ俺、先に風呂入るから。」
「あ、あぁ、わかった。」
ルキアは残りのカレーをのろのろと食べ始めた。
触られた右手首が、少しじんじんするのは、気のせいと思った。
あとがき。
5話目終了です。ちょっぴり恋愛要素を入れてみました・・・。32歳だったらちょっとのことじゃドキドキしないと思うが・・・・。
今きづいたけど、色んな人の感情入り乱れて書くの難しいです・・・。今更!